2012年8月21日火曜日

長い夏~その2


20日間の山休暇の間に、当然のことながらあちこちのコースの山歩きを楽しんだ私達。
今日はその中でも最もハードで、最も心に残った日の事を書こうと思う。

その日は山に休暇に来ていた夫の合唱団員のおじさんと一緒に山登りをする事になっていた。
待ち合わせ場所には合唱団員のロリスとそのお友達のレンツォが待っていた。
行き先は私は全く関知せず、彼らに任せた。
その時の私は、彼らがCAI(イタリア登山協会)の会員で、岩登りなどのコースを受講した熟練登山者達だとは知る由もなかった。
大体の私の技術の限界を夫は知っているし、その辺を考えてコースを決めてくれるだろうと楽観していた。
地図を眺めながらあれこれと話して、彼らが決めた目的地はPiz de Lechというセッラグループの一つの頂上。
セッラグループは大きな大きな岩山で、頂上がいくつもあり、最高峰はPiz Boe'と呼ばれる3152m。
ちなみにこのPiz Boe'は数年前に登ったけど、かーなーりハードであった記憶が・・・。
私たちが目指したPiz de Lechは2911mである。

コルヴァーラという待ち合わせ場所からのロープウェーが修理中で止まっていたため、車でカンポロンゴ峠まで移動し、車を置いて出発、という段で、おじさんたちがロープだとかカラビナだとかヘルメットなどをありったけリュックに詰めるのを見た私は、そんな物が必要なコースは行ったことありませんよ~と言って見たが、登る気満々のおじさんたちの耳には届かなかったらしく、サクッと「ああ、大丈夫大丈夫、さぁ行こう」と出発してしまった。

駐車場の前からリフトを乗り継いでVallonという駅で降りた。高度2500mくらいの位置。
そこから15分程歩いたところで「さぁ、準備しよう」と立ち止まったおじさんたち。
そこはVie Ferrateと呼ばれる、岩登りのコースの出発点であった。
あれよあれよという間に、安全ベルトを装着され、ヘルメットを被らされ、しょっていた荷物はおじさんたちのリュックの中に。もちろんカメラもiPhoneも、危ないからと仕舞われてしまった。
しかし、正直な話、もし持っていても写真を撮る余裕など1mmもなかった。
それからの約2時間、私は文字通り「死んだ気になって」岩壁にへばりつき、よじ登ったのである。

意気揚々なロリスおじさん。私の命綱係。

こんなハシゴを登った・・・。
膝と肘を擦りむいて流血し、岩肌に転々と血の痕を残しながら、それでも何とか体当たりで登った私だったが、1箇所だけパニックになりそうな場所で、自分の限界と精神的な戦いをした。
この上の写真のハシゴが終わる箇所が、岩がせり出している為によじ登るのにかなり悩んだのである。
多分慣れた方には大した場所ではなかったのかもしれないけど、初心者の私には難しくてどうしてよいか真剣に悩んだ。
その時頭をよぎったのは・・・
1、今まで登ってきた状況を考えると後戻りは絶対無理。
2、しかし前にも進めないとなると、ヘリコプターで救助要請か?
3、ヘリコプターの救助は金がかかる、それもかなりの額が。
4、ここでヘタっては女が廃る
5、お腹も空いた
・・・などであった。
結局5分くらい悩んだと思うけど、最終的に意を決して、お腹に力をこめてよじ登った。
後でレンツォおじさんに、「ああいう場面で本当にパニくって動けなくなった人を何人も引っ張り上げたんだよ。君は立派だった」と褒められた。
レンツォおじさんには、頭によぎった内容は言わない方が良さそうである。

そんなこんなで、ようやく頂上に到着~!

全員で記念撮影

基本的に自分の写真をブログに載せるのは非常に抵抗があるのだけど、こればっかりは頂上征服の証拠写真なので・・・。
もうボロッボロですけど、達成感で一杯。
これだから山登りは止められない?

さて、帰りは別のルートでギアイオーネと呼ばれる小石だらけの斜面を降りた。
行きに比べれば、なーんてことないルートである。
しかし途中で愕然とした箇所が。

真ん中あたりでへばりついている人が見えますか?

立ち止まったおじさんたちが「これは写真に撮っておいたほうがいいよ」と指差す先にはこの垂直の岩壁が。
そう、私がパニくったハシゴは、この岩壁にあったのだ。
下から登ると、一体自分がどんなところを登っているのかいまひとつピンと来ない。
しかし遠くからこの壁を見て、「知ってたら、間違いなく下で待ってた」としか言いようがなかった。

その後はお喋りしながら余裕で下山。
途中で野生のエーデルワイスにも出会えて、ちょっとだけ得した気分。


最終的には「楽しかった」って言えた岩壁よじ登りデーであったが、コースを決めたロリスにレンツォおじさんが「このコースに初心者は連れてきちゃいけなかったよ」と言っているのを聞いてしまった。
カラビナで岩に取り付けてある鉄のワイヤーに自分を繋いで登るのだが、更にロリスおじさんは私の命綱のロープも持ってくれたのだけど、その言葉で、実はちょっとリスキーでもあったのだなと理解した。
後日、お天気の悪い日にブルーニコの街へ行き本屋でVie Ferrateのガイド本でこのコースを探してみた。
難易度中の上!?
おまけに私がパニくった箇所はそのコースで一番の難所らしい。
よく無事で帰ってきたよ、自分、と本屋で思わず天を見上げたら天井だった。

次回は・・・どうするかはその時に考えることにしよう。

【オマケコーナー】
このブログを書くに当って、ネットでこのコースを検索して見つけました。
イタリア語のみですがこちらのサイトをご参照下さい。
カメラマークをクリックすると、このコースの色々なポイントの写真が見れます。





2 件のコメント:

  1. ああ、行く前に聞いてなくてよかった。
    聞いてたらからだ張っても反対するかも。
    読んで、写真見ただけでもドキドキするね。
    それにしても
    帰ってきたんだから良かったねだね。
    それにすごい経験、おめでとう。

    返信削除
  2. ええ、私も知ってたら尻込みして行かなかったと思います。
    でもね、大変だったけど不思議と怖いとは思わなかったの。そして後になったら「やっぱり行って良かった」って思いました。
    いやぁ、いくつになっても「初めての経験」って楽しいわ~♪

    返信削除