2012年8月31日金曜日

雨降り野外オペラ(ダラダラ長文です)

夏から秋への移行を感じさせる雨の週末です。
水不足や、干ばつの酷かった今年の夏のイタリアに、ようやく恵みの雨が降っている・・・そんな感じです。
しかし田畑には恵みの雨でも、野外オペラ公演には残念な雨でもあります。
有名なヴェローナのアレーナ野外オペラ。今週の日曜日まで公演が続きます。どうなることやら。

昨日は小雨の中をそのアレーナへ。
知り合いの関係でチケットを頂いたので、『トゥーランドット』を観に行って来ました。

若い声楽を学ぶKさん。本当はご両親と旅行で来られるはずだったのがご両親が都合で旅行をキャンセル、でもチケットのキャンセルは出来なかったので、友人を通じて私たちに声がかかりました。なんてラッキー!
初めて会ったその若い日本人女性にはチケットのお礼に夕食をご馳走して、プログラムを買ってお土産にしていただきました。

彼女と合流してピザを食べて楽しくお喋り・・・ってとこまでは順調だったのだけど、残念ながら天気予報がドンピシャで、夕方から黒い雲が空を覆い始め、開演一時間前にはとうとうシトシトと雨が降って来ました。
今までに、開演後に途中で雨が降り始めて中断とか中止ってのはありましたが、開演前から降っている状況は初めて。
どうなるんだろうね、と言いながらもとりあえずアレーナへ向かいました。
雨が降っていても開場が始まっていたので、Kさんが早く中が見たいだろうと入場。
会場ではプログラムや台本と一緒に簡易雨合羽が売られていました。(ちなみに5€)
私とKさんは簡易雨合羽を持っていたのですが、夫は仕方なく購入、会場中が色とりどりの雨合羽や傘に彩られている中、今度は長ーーーーい待ちが始まりました。
待つ気満々の皆さん。


座席は3列目ほぼ中央。凄い席です。エキストラの小芝居までまじまじと見える距離。
ゼッフィレッリの演出なので細かい細かい!
ちなみに私、こんな良い席でアレーナでオペラを観たことはかつてありません。
近っ!!!

客層は裕福な観光客が主で、イタリア人はポツポツ。
一列目はVIP席なのか、みなさんシャンパンとかお飲みになって優雅優雅。ちなみにシャンパンはヴーヴクリコでツマミはパルミジャーノでしたわ。
イタリアなんだし近いんだからフランチャコルタにすればいいのにっ!と心の中で突っ込んだフランチャコルタファンの私。
スタンド席の観客が退屈しのぎにウェーブとかして盛り上がっている中、私は普段見られないVIP席の観察なんぞしながら時間を潰しておりました。

9時の開演でしたが、時間が過ぎても中止のアナウンスはなく、「天候のために開演が遅れております。しばらくお待ち下さい」という案内ばかり。
一音も出さずに中止をすると、全額払い戻しになるので、アレーナ側も小雨の合間に少しでも公演を始めてしまいたいと思っているのは明らか。ちなみに、一般的に野外オペラは1幕を演奏し終えない限りは払い戻す、という規定があるみたいなんだけど、アレーナは一音でも演奏すれば払い戻しが無いのだそうです。
HPにも「公演が始まる前に中止になった場合のみ払い戻す」と書いてあります。ちょっと酷くないか、これ?
まぁ、その商魂逞しい興行主の怨念が通じたのか、やがてそのチャンスがやって来ました。(悪運強し!?)

時間にして夜10時。開演時刻から1時間も過ぎていました。
よくまぁ、私たちも待っていたこと。
雨が止みそうになって、舞台とオケピットを拭きまくるお掃除部隊が現れました。
ちなみに彼女達は昨日3回も登場・・・。昨日最もお天気に翻弄されたのはこういう裏方さんだったと思います。
やがてライブラリアンが楽譜を譜面台に設置し始め、わらわらとオケのメンバーが楽器をケースごと持って現れました。
あぁ、そしてとうとう指揮者が登場!開演です!!!
ちゃらら~ら~らっ!ちゃん、ちゃん、ちゃん・・・・ぽーぽろでぃぺきーの~、ら れっじぇーえくえすとっ!
とマンダリーノが歌ったところでまた雨が・・・。

↓こちらの動画でぜひこの出だしをお聞き下さい。(笑)


・・・中断です。

ちなみにどんなにポツポツ雨でも中断するのはオーケストラの楽器のためです。
特に弦楽器、木管楽器あたりがデリケート。
だから、ポツっ!と来たらオケは演奏をサクッとストップ。
観客には酷ですが、高価でデリケートな楽器なので仕方がありません。

再び「お待ち下さい~」のアナウンスがあり、中には諦めて帰ってしまう人も。
私の隣で開演を待ちながらiPhoneでパヴァロッティの『誰も寝てはならぬ』を聴いていたスペイン人のおじさんはこの時点でリタイア・・・。そのビデオをアレーナ内で聴く事で満足したのだろうか?(˘・з・˘)
しかし約20分後、急に風が吹き始めて天候が好転!再びお掃除部隊が現れ、大急ぎで開演の準備が始められました。会場の雰囲気も一気に明るくなり、慌てて席に戻るVIPたち。(シャンパンのスタンドに行っていたと思われる)
そして袖から駆け足で指揮者も現れ、挨拶もソコソコに演奏が始まりましたーーーー!

一幕が無事に終了し、休憩は取らずに場面転換だけで二幕に突入。(これがいつもの事なのか、それとも昨日だけの処置なのかは不明。でも努力は認めたい。特に歌手の皆さんの)
しかし・・・二幕一場が終わろうとする頃に、また空気が雨っぽくなって来ました。
続く二幕二場はいよいよゼッフィレッリの演出の真骨頂である豪華絢爛なセットがオープンに。
おぉぉぉ~と、盛り上がる観客!
しかしその時、小さな雨粒が落ち始めました。
多分だが、指揮者はテンポを巻いていたと思います。せめてタイトルロールの登場のアリアまでは・・・!と。
そして水色の衣装を着たトゥーランドットが登場し、アリアを歌い始めました。
前夜この曲を歌ったばかりの私は、急に分析モードに入って聞き入ってしまいました。(職業病)

しかし雨は無情。

このアリアの最後にテノールが入ってくる最高に盛り上がる部分の手前で、オケがストップ。
観客席中にあぁ、残念~~~~な空気が流れたけど、舞台の上の歌手達も残念そう。そりゃそうだろう。
というわけで、この日の公演はここで終了。
アリアの残りの部分は自分で歌いながら帰途につきました。(誰も聴いてないけど)
結局私が聴きたいところは殆ど聴けず終いであったけど、雨の中の待ちぼうけも楽しい経験だった一夜でした。
Kさん、本当にありがとうございました。

そして、やはりオペラは良い席で観るのが一番、と言う事を再確認したビンボー夫婦の私達でした。

2012年8月30日木曜日

8月も終わりに近づき。

ようやくイタリアの長い酷暑にも秋の空気が混じり始めた今日この頃。
8月も終わりなのだから当然なのだろうけど、今年の暑さは本当に厳しくて、もう1週間も続いたらもう一度山に休暇に行きたくなるような感じだった。
最高気温が40度近い日々に比べると、33度なんて本当になんでもなく感じるから不思議だ。
何より熱帯夜が終わったことが(本当に終わったことを願うが・・・)嬉しい。
寝室のある2階は1階に比べて3~4度は軽く気温が高いので、夏の間は1階のソファーベッドで眠るのが習慣になっているのだが、
ソファーベッドはやはり簡易ベッドでもあるので、どうも熟睡できない。
暑くて寝苦しいのも辛いが、身体に合わないベッドで寝るのもなかなか辛い。
というわけで、寝慣れたベッドで熟睡できるだけでも幸せである。


8月25日は私達夫婦の結婚記念日でもあり、この日の為にヒマは私たちは「美味しい魚料理のレストラン」をネットで探しまくった。
あれこれ散々検索した後に、私が昔お仕事で行ったレストランのカードを見つけて、結局そのお店に行く事にした。
Vecia Osteria da Mauro
こんな記念日じゃないとちょっと行けない、と思ってここに決めたのだけど、本当に美味しくて二人で美味しいねー美味しいねーと言いながらMenu degustazione(お店のオススメのお料理のコース)を食べつくした私達。
写真を撮り忘れた2種類の前菜(1:生のお魚や海老の盛り合わせ、2:グランセオラと呼ばれる茹でた蟹の身)の後には・・・
オマール海老のパスタ。絶品。

フリットミスト。ちなみにこれは二人分。黒っぽく見えるのはイカなのだが、墨を持っていて甘くて美味しい!

ワインを飲むのはもっぱら私が主なので、ボトルは諦めてグラスでフランチャコルタを2杯とソーヴィニョンを1杯頂いた。フランチャコルタはやっぱり美味しいなぁ・・・♡
デザートはオリジナルのジェラート。産地を厳選したピーナッツやピスタチオ、コーヒー、チョコレートなどの中から選べる。
最後にコーヒーを飲んでご馳走様。
やっぱ、色気より食い気な夫婦である。


その結婚記念日の前日は、ローマに住む大学時代からの友人のSちゃんがパドヴァにやってきた。
遊びに来たわけではなく、公認ガイドの資格を持つ彼は、日本の中学校の修学旅行(!!!)の仕事で来たのである。夕飯の後にホテルへ迎えに行き、パドヴァの街へ連れ出した。
写真を撮って、一体何がそんなに面白いのか意味不明な事に大笑いしながら、街の中心部を散歩。一緒に来た夫は、ゲラゲラと笑い転げる私達を見て、たぶん5mくらい引いていたと思う。
どうして子供の頃(18歳なんて子供でしょ?)からの知り合いって、無茶苦茶久しぶりに会っても時間の溝を感じないんだろうか。不思議だ。
でも久しぶりに「無防備」な時間を過したような気持ちだった。なぜ「無防備」なのかは上手く説明出来ないけど、そう感じた次第。


8月の最後のイベントは夕べのコンサートだった。
モンテッキオというヴィチェンツァとヴェローナの間にある街の古いお城のお庭で行われた。
『ロミオとジュリエット』のロミオの出身地という伝説のあるこの街、お城も「ロミオのお城」と呼ばれている。
そんなベタな名前をつけている割には、あまり観光地化されていない素朴な雰囲気であった。
開演準備中~。

満月ではないけど明るい月明かりの下でのコンサート。

私は『オテロ』からテノールとの二重唱、『アイーダ』からバリトンとの二重唱、そして最後にトゥーランドット姫のアリアを歌った。
とにかく出演者も多かったので、長い長いコンサートが終演したのは11時半を回っていた。
2時間以上の長丁場。
待ちが長かった私も疲れたが、ずーっとピアノを弾き続けていた夫には敢闘賞を贈りたい。

こんな感じで8月が、夏が終わってゆく。
9月に入ったら本格的に10月のコンサートの準備を始めなくては。
そのコンサートではイゾルデのアリアを歌う予定。今から楽しみ。



2012年8月28日火曜日

Astrid Varnay

アストリッド・ヴァルナイ

偉大な歌手です。
Grande Voce(偉大な声)という言葉はこの人の為にある言葉です。
今、この人の声に惚れこんでしまって、曲によっては他の人が聴けなくなってしまって居る状態。

どんな言葉よりも、まずは聴いてみてください。



大きな立派な声、というだけではなく、緻密なテクニックや言葉に対する重みもしっかり感じられる。
ああ、凄い。本当に凄い。

と、益々ワーグナーの世界に耽溺している今日この頃。

2012年8月26日日曜日

実は色々あったのさ・・・って話を。【夏休み番外編】

5回に分けて楽しいことや美味しい話ばっかり書きましたけど、実はチョイとトラブルというかアクシデントというか、あっちゃぁ~な事があったのです。
どれも「もっと悪い事態になっていたかもしれないけど、案外ラッキーでもあった」と思えるような話なので、気軽に読んでくださいね~。

①iPhone4sは夢だったの巻

山着いた翌日に、友達夫婦を訪れてワイン試飲のイベントに参加したことは”その3”で書いたが、その帰り道。
大して酔っ払っていたわけではないのに、友達との別れ際に完全によそ見をしていて歩道の段差を踏み外した。その時、首に大事なニコ子(デジイチカメラ)を下げていた私は、とっさにカメラを守って身体を犠牲にしてコケた。
見事な転びっぷりに回りはもちろん唖然。道の向こうに渡りきっていた友達夫婦も速攻で駆けつけてきた。
私が身を挺して守ったお陰でカメラは無事だったが、弾みでポケットに入っていたiPhoneがすっ飛んだ。
友達が拾ってくれたiPhoneはこんな姿に・・・。(涙)

こんな姿でもキチンと動いていたところが凄かったが、私はショックを受けながらも「これでもうすぐ4sか秋に発売予定の5をゲットか・・・」と密かにホクホクしていた。
しかしガラスの破片がポロポロと落ちるので、翌朝、一番近い町の携帯ショップで保護フィルムを買おうと思って行ってみた。
そこで夫が「これって修理できるんですか?」と横から口を出した!

あぁ、そしてこの瞬間、私の新iPhoneゲット計画は脆くも崩れ去ったのだった。

なんとその店では修理を受け付けており(山の中の小さな町の携帯ショップなのよっ!)、更にその週の木曜の朝に持って行けば、その日の夜には完成するのだと言うではないか!
ここはどこ?イタリアよね?いや、やっぱり南チロルはイタリアの中にあるけどイタリアじゃないのね・・・と再確認した。
というわけで、今私の横では新品同様になったiPhone3GS がニッコリと微笑んでおります。
ハハハハハハハハハハハハハ….((´༎ຶ۝༎ຶ)
しかし一つ問題が。今時3GSモデルの保護フィルムがなかなか手に入らなくなっていると言う事・・・。誰か見つけたら教えてね♡

②パンダ、追突する、の巻

オーストリアからの帰り道、私達は列車に車ごと乗ってトンネルをくぐって山を越えるコースを選んだ事は”その5”で書いたが・・・。
混みあっていた車両運搬電車はかなりキツキツの隙間で(多分15cmあったかないか)積載した。初めのほうに載った車は結構ゆとりの間隔だったが、最後のほうになってしまった私達はちょっとかなりの狭さ、それでも載れたのでホッとして最後尾の人間用車両に移動した。
列車が発車してしばらくして、私は列車が坂を登っているのを感じた。ふと思って積載時に運転していた夫に「サイドブレーキ、ギリギリまで引いたよね?」と尋ねた。夫は「もちろん引いたと思う」と言うので、とりあえず安心していた。

が、しかし・・・。

列車が到着して、私は出口で待機し、夫が車を取りに行った。
ようやく出てきたので、サッサと乗り込もうとしたら車を停車させて夫が降りてきた。
「ちょっとぶつかっちゃった」と。見ると私たちの前に停まっていた車からも女性二人が降りてくる。ナンバーはドイツ。

こ、この紺色のVWなのよーーーー!きーーー!

私の不安が的中して、どうやらパンダが動いて彼女達の車に追突した形になっていたらしい。
見ると彼女達の車のバンパーの真ん中に何かで突いて出来たような穴が。そして彼女達はこんなのは無かった!と言い張る。
こういう状況では、ぶつかった方が立場が弱いのは素人の私でも分かるし、強いことは言えないが、正直、パンダにはそんな穴を空ける様な物はなにも付いてないし、あの車間距離でこんな穴が空くような衝撃を与えたとも思えない。客観的に考えると絶対にありえないんだけど・・・でもぶつかったのはこっちだし、結局50€払ってさいなら~って事になった。
いくら私がドイツ語を勉強しているからって、こんな状況で独逸人のおばちゃんとやりあえるようなレベルには程遠い。情けないけど最低限の事しか訴えられなかった。ああ悔しい。
気を取り直して走り出して、しばらくは腹が立って仕方がなかったけど、少ししてから考えた。
パンダにはなんのキズもなかったし、もし警察とか呼んであれこれ調べて結局あのバンパーを全とっかえなんて事になったら50€じゃ済まないかもしれないし・・・と。
こう言う事はとっとと忘れるに限る!と、帰宅した頃にはすっかり忘れていたのに、これを書いていたら思い出してまた腹立ってきたーーーーー!
アホやん、アタシ・・・。

番外編 おしまい!


長い夏~その5 【帰宅&まとめ編】

イゾルデの余韻に包まれて目覚めた翌朝は、残念ながら爽やかなゴルデックから猛暑のパドヴァへ帰る日だった。
休暇の後の帰宅ラッシュが予想される週末でもあったので、高速ではなく山越えの空いている道を、急がずにのんびり通って帰る事に決めていた。

早起きして荷造りとアパートの簡単な掃除をし、怪しいドイツ語でアパートのご主人夫婦に挨拶をして出発した。
ちょっと忘れ物があったので、先生宅にも寄ってもう一度ご挨拶。
先生は超早起きして、パーティーの後片付けをされたとかで、キッチンは既にピカピカだった。
ミュンヘンでの再会を約束してお別れ。
充実したレッスンをありがとうございましたー♪

快晴のお天気の中、まずはBad Gasteinを目指す。


ここは山の中にある歴史のある温泉町で、遠くから見ると結構急勾配の土地に大きなホテルが張り付いているよう。
歴史上の有名な人物(シッシー、シューベルト、ビスマルクなどの名前を町の中で見かけた)がこぞって静養に訪れたとかで、街の中心には重厚な建物が並んでいる。
しかし、季節はずれなのか、それとも町自体が少し寂れているのか、それらの建物は半壊の状態であったり、ホテルも売りに出されていたりしていた。
ちょっと寂しいね。



散策路から谷を一望。

森林浴をたっぷりと。
Gastein谷の風景を楽しみながら森を抜ける散策路ではリスや野鳥に出会った後、街中のパン屋さんで軽い昼食をした後、再び出発。今度はBöckstein というところを目指す。
この町の先の山越えは、Böckstein という駅から車ごと汽車に乗ってトンネルをくぐるシステムなのだ。

行って見ると、30台くらいの車が列を作って、次の列車を待っている。
表示された時間では次の列車は約40分後。炎天下の強い日差しの下、じっと我慢である。
やがて乗車が始まった。料金は乗用車1台につき17€。まぁ、こんなもんか。
どんどん車が乗り込んでゆく。

ハイシーズンなので混みあっていて、ギリギリの車間距離で車を停めたら、今度は最後尾の乗客用の車両へダッシュ。こちらも混みこみ。
約10分の汽車の旅(真っ暗なトンネルだったけど)で、山の反対側のOberfellachという駅に到着、車を引き取り、一路南に向かう。
その後は渋滞にも遭わず、順調なドライブで無事に我が家へ到着。
そこは猛暑のイタリアが待っていた・・・。
あぁ、山の休暇にもどりたい、と心底思った瞬間。

【まとめ】

本当に盛りだくさんな2012年の夏であった、とこの3ヶ月を振り返って思う。
6月は生徒のコンサート準備に燃え、7月はコンサートの成功と山での休暇、8月は気分的にワーグナーな日々・・・。仕事に遊びに勉強に、精力的な日々だった。
そして記録的酷暑となった今年のイタリアも、そろそろ夏の終わりが近づいている。
これを書いている今日8月26日は、久しぶりに北からの寒気団がもたらした雨で涼しい朝になった。
少しだけ秋を感じる空気の中で、この長い夏の記録を最後まで読んでくださった事に感謝しつつ・・・

おしまい。


2012年8月24日金曜日

長い夏~その4 【ゴルデックでお勉強編】

お城からゴルデック湖を臨む


長いドロミテでのバカンスから帰宅して1週間後、今度はオーストリアのザルツブルグ州にあるゴルデックという町へ出かけた。
ミュンヘンで主にワーグナーのレパートリーを教えていただいているロイブル先生のプライベートコースに参加するためである。
この小さな可愛らしい村に先生は別荘をもっていらして、毎年夏に5日間の集中レッスンをされている。いつか参加したいと思っていたのだが、ようやく今年初めて実現した。

ゴルデック城
この街には12世紀に建てられたという小さな、でもとても保存状態の良いお城があって、コースの最後には参加者によるコンサートもあるので、私の密かな目標である「ワーグナーのアリアをドイツ語圏で歌う」という事も達成できるのではないかと、期待一杯&不安少々で参加した。

とにかく暑いイタリアでは練習をする気にもならなかったが、ここは本当に爽やかな気候で、レッスンを受けていても汗もかかない。かといって日中の日差しは強く、太陽の下では汗ばむのだが、夜は夜で肌寒いほどでとても良く眠れる。

勉強するには最適の環境である!

というわけで、5日間、先生の熱心なレッスンを受け、ピアニストと楽しく(笑)合わせをし、充実の日々を過させていただいた。

ワーグナーのオペラに関しては初心者の域をなかなか出ることの出来ない私だが、今回は先生に薦められるままに譜読みをした、『神々の黄昏』のフィナーレのアリア、Starke Scheiteと、とりあえず秋にコンサートで歌う予定のイゾルデのアリア、Liebestod、その他シュトラウスの歌曲を数曲持って参加した。
『神々・・・』のブリュンヒルデのパートはとても長くて大変で、全曲を歌うのは次の人生だな、と諦めているけれど、このStarke Scheiteは、音楽も素晴らしく、声的にも楽なのでとても楽しくレッスンしていただけた。次回またミュンヘンで聴いていただける時が楽しみである。

当然のようにコンサートではイゾルデとシュトラウスの歌曲を歌う事に決まり、もう一曲イタリア物をと言われてトスカのアリアを選曲した。
しかしコンサートの当日まで、とにかくイゾルデのアリアで頭が一杯の私だった。
歌詞の暗譜もだけど、この壮大な音楽に負けずに形にする事で必死だった。
もちろん最後までスタミナ切れせずに歌いきることも。
改めて、ワーグナーの長大なオペラを歌うって大変なのねぇ・・・と身をもって実感した。

そんなレッスンの合間に、ゴルデックから車で20分程のところにLiechtensteinklammという滝の名所があるというので行ってみた。



丁度8月15日の祭日に当っていたためか、相当な人手で、入場料を払う窓口は長蛇の列。多分、2,30分は待ったと思う。
そこは豊かな水量に削られた岩やダイナミックに切り立った狭い峡谷をの中に作られた遊歩道を奥にある滝まで歩いていくというコースで、想像以上の迫力に思わず声を上げるほどであった。
お近くを通られる方には、是非オススメの観光スポットです。

快適な気候の中で充実した日々を過し、とうとう最終のコンサートの日になった。
リハーサル中。響きが良すぎる会場!

前日に会場になるお城の中のホール(天井画と壁画で一杯の素晴らしいお部屋!)でリハーサルもし、暗譜もなんとか出来たけど、何となく精神的なゆとりの無かった私。
そんなわけで1曲目の歌曲も2曲目のトスカも、なんとなく不発で不満な出来だった気がする。
後になって思えば、最後のイゾルデのアリア(おまけにドプレッシャーなプログラムのトリ(°□°;)!)に神経が行き過ぎていたようだ。
その甲斐あってというか、結局はイゾルデが一番納得できる出来だったと思う。
コンサートに向けて勉強したことが100%とは言わないが、大部分反映できたと思う。
ピアニストの未来さんも素晴らしい演奏でサポートしてくれた。
まだまだこれからだけど、少しだけワーグナーの世界の入り口から一歩中に入れたような気分だった。

生徒それぞれが頑張って盛り上がったコンサート後は、先生のお宅で生徒それぞれが持ち寄った料理でパーティー。
ドイツ語、イタリア語、日本語、が飛び交って賑やかな夕べであった。
先生は・・・嬉しそうだった・・・と信じたい。

次回は長い夏シリーズ、最終回の予定~♪



2012年8月22日水曜日

長い夏~その3

今日は湖とワインの話。

私たちが山に到着した翌日、車で45分くらいの距離のValdaoraという町にバカンスに来ていた友人夫婦を訪ねた。
その日が彼らの休暇最終日だったのだ。
本当は昼頃合流して、ブライエス湖などの散策をしようって言っていたのだが、彼女の方が持病の腰痛が出てしまったため、散策は私達だけで行く事になった。

ブライエス湖は山に囲まれた美しい湖で、湖畔を一周することが出来る。
私たちも休暇初日にハードなトレッキングは無理なので、湖畔の散策は丁度良いウォーミングアップになった。
お天気も素晴らしく良く、本当に気持ちの良い日だった。

ブライエス湖。時間によって水の色がどんどん変わる。


この湖、実は最近始まったイタリアのTVドラマの舞台にもなっているらしく、それを観ている夫は妙に嬉しそうだった・・・。(笑)

湖畔で半日くらい過ごして、夕方Valdaoraへ向かった。
こちらはプステリア谷にある町で、プラン・デ・コローネス山のふもとにある。

Valdaoraの教会内部

一日ベッドで過ごしたという友人妻は、夕方には大分動けるようになっていたので、一緒に街の付近を散歩した後、彼らの宿泊するホテルのレストランで一緒に夕飯を食べた。
そして夕食後に私にとって最高に楽しいイベントが待っていた。

偶然にもその日の夕方から、街の中心にある公園でアルト・アディジェ州の主要ワイン製造業者のイベントが開催されていた。
私はアルト・アディジェのワインが大好きである。特に白が好きなのだが、最近はピノ・ネーロやラーグラインの赤も気に入っている。
イベントは入場時にグラスの保証金の5€に加え、3種類のワインが味わえる3€パックかいくらでも好きなだけ味わえる10€パックのどちらかを選んで支払う。
グラスを受け取って、20件程のスタンドを物色して、飲んでみたいワインを選び、3€パックの人はチケットを渡し、10€パックの人は貰ったブレスレットを提示するのだ。
私は飲み過ぎないように3€パックを買い(夫は運転なのでナシ!)、友人夫婦も飲むのはご主人の方なので3€パックを買って入場した。

ホントに楽しいイベント♪

目移りしまくりの私だったが、厳選して白2種と赤1種を堪能。そして真面目にチケットを使い果たした。と、そこへ友人夫がやってきて「チケット渡すの忘れちゃった~」と。
どうやらイベントが盛り上がり、業者のほうも商品のプロモーションが目的のイベントなせいか、いちいちチケットを受け取らなくなっているらしい。
そういえば、私も訊かれてもいないのに「はいっ!」ってチケット渡してた。
友人夫はその後もその勢いで、結局8種類くらいのワインを味わってご満悦だった。

日本人=訊かれなくてもチケットを渡す。
イタリア人=訊かれるまでチケットは渡さない。

後日、私の滞在していた村の近くの町でも似たようなイベントが開催されたので行ってみた。
しかしあいにくのお天気で、正にイベントが始まらんという時に大雨に見舞われてしまい、イベントとしてはかなり残念な状況だった。

それでも私はしっかり入場した。
こちらは定額で20€を払い、ブックレットを受け取り、あとは飲み放題。グリッシーニなどのおつまみも置いてあった。(グリッシーニだけだったけど!)
ヒマだった事もあってか、スタンドのお兄ちゃん達も親切に色々と説明してくれて、それはそれで楽しかった。
ソーヴィニョンを3種類、ゲヴルツトラミーナーを2種類、その他ピノビアンコ、ピノネーロ、ラーグラインなど、一体何種類味見をしたか記憶にない・・・( ̄▽ ̄;)
でもどれも美味しかったし、帰りも約30分の道のりを歩いて帰ったから、酔っ払いではなかった事をここにしっかりと書かせていただくっ!

余りに酷いお天気に、主催者が諦めて片づけを始めた頃、ようやく雨が上がり虹が出た。
ちょっと遅かったね・・・。

ところでこの日イザルコ谷の公営ワイン醸造のワインが出ていたのだが、ここはワイン好きの友人にも「値段とクォリティーのバランスが最高」と教えてもらっていたところ。
実際にとても美味しかったので、後日車を走らせて買いに行ってきた。
白6本、赤6本・・・しばらく楽しめそうだ。うっしっし。
その他、凄く美味しかったワインは以下のとおり。覚書として・・・。
Erste+Neueのソーヴィニョン
Gumphof,Markus Prackwieserのピノ・ネーロ
Manincorのソーヴィニョン

イタリアには美味しいワインが本当に星の数ほどある。
ソムリエでもないし、どんなに飲んでも網羅は不可能だから、せめて好きなワインは覚えておいて、お友達に教えて上げたり出来れば楽しいと思う。
暑さが和らいだら、買って来たワインと料理で、ワイン好きの友達をもてなす夕べを企画したい。美味しいお酒は楽しい仲間と飲むのが一番だから。






2012年8月21日火曜日

長い夏~その2


20日間の山休暇の間に、当然のことながらあちこちのコースの山歩きを楽しんだ私達。
今日はその中でも最もハードで、最も心に残った日の事を書こうと思う。

その日は山に休暇に来ていた夫の合唱団員のおじさんと一緒に山登りをする事になっていた。
待ち合わせ場所には合唱団員のロリスとそのお友達のレンツォが待っていた。
行き先は私は全く関知せず、彼らに任せた。
その時の私は、彼らがCAI(イタリア登山協会)の会員で、岩登りなどのコースを受講した熟練登山者達だとは知る由もなかった。
大体の私の技術の限界を夫は知っているし、その辺を考えてコースを決めてくれるだろうと楽観していた。
地図を眺めながらあれこれと話して、彼らが決めた目的地はPiz de Lechというセッラグループの一つの頂上。
セッラグループは大きな大きな岩山で、頂上がいくつもあり、最高峰はPiz Boe'と呼ばれる3152m。
ちなみにこのPiz Boe'は数年前に登ったけど、かーなーりハードであった記憶が・・・。
私たちが目指したPiz de Lechは2911mである。

コルヴァーラという待ち合わせ場所からのロープウェーが修理中で止まっていたため、車でカンポロンゴ峠まで移動し、車を置いて出発、という段で、おじさんたちがロープだとかカラビナだとかヘルメットなどをありったけリュックに詰めるのを見た私は、そんな物が必要なコースは行ったことありませんよ~と言って見たが、登る気満々のおじさんたちの耳には届かなかったらしく、サクッと「ああ、大丈夫大丈夫、さぁ行こう」と出発してしまった。

駐車場の前からリフトを乗り継いでVallonという駅で降りた。高度2500mくらいの位置。
そこから15分程歩いたところで「さぁ、準備しよう」と立ち止まったおじさんたち。
そこはVie Ferrateと呼ばれる、岩登りのコースの出発点であった。
あれよあれよという間に、安全ベルトを装着され、ヘルメットを被らされ、しょっていた荷物はおじさんたちのリュックの中に。もちろんカメラもiPhoneも、危ないからと仕舞われてしまった。
しかし、正直な話、もし持っていても写真を撮る余裕など1mmもなかった。
それからの約2時間、私は文字通り「死んだ気になって」岩壁にへばりつき、よじ登ったのである。

意気揚々なロリスおじさん。私の命綱係。

こんなハシゴを登った・・・。
膝と肘を擦りむいて流血し、岩肌に転々と血の痕を残しながら、それでも何とか体当たりで登った私だったが、1箇所だけパニックになりそうな場所で、自分の限界と精神的な戦いをした。
この上の写真のハシゴが終わる箇所が、岩がせり出している為によじ登るのにかなり悩んだのである。
多分慣れた方には大した場所ではなかったのかもしれないけど、初心者の私には難しくてどうしてよいか真剣に悩んだ。
その時頭をよぎったのは・・・
1、今まで登ってきた状況を考えると後戻りは絶対無理。
2、しかし前にも進めないとなると、ヘリコプターで救助要請か?
3、ヘリコプターの救助は金がかかる、それもかなりの額が。
4、ここでヘタっては女が廃る
5、お腹も空いた
・・・などであった。
結局5分くらい悩んだと思うけど、最終的に意を決して、お腹に力をこめてよじ登った。
後でレンツォおじさんに、「ああいう場面で本当にパニくって動けなくなった人を何人も引っ張り上げたんだよ。君は立派だった」と褒められた。
レンツォおじさんには、頭によぎった内容は言わない方が良さそうである。

そんなこんなで、ようやく頂上に到着~!

全員で記念撮影

基本的に自分の写真をブログに載せるのは非常に抵抗があるのだけど、こればっかりは頂上征服の証拠写真なので・・・。
もうボロッボロですけど、達成感で一杯。
これだから山登りは止められない?

さて、帰りは別のルートでギアイオーネと呼ばれる小石だらけの斜面を降りた。
行きに比べれば、なーんてことないルートである。
しかし途中で愕然とした箇所が。

真ん中あたりでへばりついている人が見えますか?

立ち止まったおじさんたちが「これは写真に撮っておいたほうがいいよ」と指差す先にはこの垂直の岩壁が。
そう、私がパニくったハシゴは、この岩壁にあったのだ。
下から登ると、一体自分がどんなところを登っているのかいまひとつピンと来ない。
しかし遠くからこの壁を見て、「知ってたら、間違いなく下で待ってた」としか言いようがなかった。

その後はお喋りしながら余裕で下山。
途中で野生のエーデルワイスにも出会えて、ちょっとだけ得した気分。


最終的には「楽しかった」って言えた岩壁よじ登りデーであったが、コースを決めたロリスにレンツォおじさんが「このコースに初心者は連れてきちゃいけなかったよ」と言っているのを聞いてしまった。
カラビナで岩に取り付けてある鉄のワイヤーに自分を繋いで登るのだが、更にロリスおじさんは私の命綱のロープも持ってくれたのだけど、その言葉で、実はちょっとリスキーでもあったのだなと理解した。
後日、お天気の悪い日にブルーニコの街へ行き本屋でVie Ferrateのガイド本でこのコースを探してみた。
難易度中の上!?
おまけに私がパニくった箇所はそのコースで一番の難所らしい。
よく無事で帰ってきたよ、自分、と本屋で思わず天を見上げたら天井だった。

次回は・・・どうするかはその時に考えることにしよう。

【オマケコーナー】
このブログを書くに当って、ネットでこのコースを検索して見つけました。
イタリア語のみですがこちらのサイトをご参照下さい。
カメラマークをクリックすると、このコースの色々なポイントの写真が見れます。





2012年8月20日月曜日

長い夏~その1

マルモラーダとグルッポ・セッラを臨む

2003年の夏は記録的酷暑だった。
お陰で赤ワインの出来がすこぶる良かったらしく、いまだに2003年物の赤ワインを見るとホクホクしてしまう。
あの夏の暑さは忘れられない。なぜなら連日40度超えの日々を、これまた特に暑いことで有名なトスカーナで過ごしたからだ。そんな暑さの中で蝶々夫人とか歌ってた私。
若かったな、と思う。

以来、毎年夏には必ず暑い数日間があるのだけど、「2003年に比べればね・・・」という感じだった。
が、今年の夏はちょーっとハンパない暑さが続いている。
私の住む北イタリアでもこの暑さだから、南はもっと凄いに違いない。
当然水不足も起こっている。
いつもなら8月も半ばになれば、夕方にはザーッと一雨夕立のようなものがあり、お陰で夜はすごしやすくなるパターンなのに、今年はまだそれがない。
わが故郷日本も猛暑・大雨の異常な気象に見舞われているらしい。
地球温暖化のせいなのだろうか。
環境を無視して便利な世の中を追いかけたツケを払っているのだろうか。

と、前置きが長くなったけど、今年の私たちの山の休暇も長かった。
ここには書き切れないほど盛りだくさんな休暇だったので、数回に分けて書きたいと思う。

去年の夏を日本で過ごした為にドロミテに行けなかった分、今年はたっぷり20日間を過した。
80%くらい夫の意向であるが、私も涼しくて蚊のいない山は大好きなので全く文句はない。
休暇に出る前が結構忙しかったので、車が北上してサッソ・ルンゴの山が見えたときは、心底ホッとした。
美しい景色、爽やかな空気、冷たい水・・・
もちろん美味しい物もたくさんあるのだけど、もしそれがなくても多分大好きなドロミテの山々。

コントゥリーネスとサッソ・デッラ・クローチェ


今回の長い滞在はAlta Badiaの小さな村のアパート。二人には充分な広さで、設備も整っていてとても快適だった。
アパートのテラスからの眺め

昼ごはんは山歩きの途中でガッツリ食べるので、夜はスープやサラダで軽めにしていたつもりだったけど、どうしてもビールの消費量が増えてしまう為、ダイエット効果はゼロ。
でもこんな景色ではビールが止まらない。

それでもホテルに滞在して、毎日夕食がレストランメニュー、というのに比べると身体も楽で、デブり具合も最小限で済んだ・・・と思いたい。爆。

ドロミテではどこへ行っても、どの山を登っても、360度美しい景色に囲まれる。
雄大・・・なんて言葉が安っぽく感じるほどの風景である。
見上げる山々は、気の遠くなるような年月を経て聳え立っている。我々人間のなんとちっぽけなことよ。
そんな事を思いながら、野生児のように山登りを楽しませてもらった。
そう、私たちはこの偉大な自然に、安らぎや楽しみや幸福感を与えてもらったのだ。

帰路。
段々と遠くなる山々が本当に寂しかった。
寂しい分、また来年の夏が楽しみでもある。
あの素晴らしい自然環境を守るアルト・アディジェ州とその人々に心から感謝と尊敬を。

次回は心に残ったエピソードや山登りについて書く予定。